新たな道へ　１３

＜２７＞

担当の田嶋が出て行った後

つくしは、あまりの規模の大きなプロジェクト・・

そして内容に不安が隠せずにいた

「はぁ・・。」

つくしのため息に隣に座って説明を一緒に聞いていた佐々木さんが

声をかけた

「牧野さん、ため息なんてついて・・どうしたの？」

「佐々木さん・・この話、辞退してもいいですか？」

つくしの言葉に佐々木は驚いた

「ええ？！それは無理よ、きっと・・

　だって、さっきの話聞いたでしょ。

　もうかなり計画は進んでいそうよ。

　それを無しにするのは・・ねぇ・・

　・・わたし映画化するっていう話は聞いてなかったわ。

　池上さん、なぜ私にも教えてくれなかったの？」

池上は会議室で淹れてもらったコーヒーをすすりながら言った

「いや・・悪い・・俺もいい線行くとは思ったけど

　まさか本当に入選しちまうとは思わなかったから」

「でも・・・困るんです・・今お話聞いて尚更無理だと思いました

　本当に無理です。小説だけ渡して、私は一切ノータッチならまだしも・・

　そうだ！そうしてください！！お願いします。」

つくしは池上にお願いした。

つくしは先程の田嶋からの話を聞いて驚いていた

今回の映画化には花沢物産が絡んでいること

・・・そして何よりその責任者に花沢類がついていることが

つくしの心を大きく動揺させた

４年前花沢類の前からも逃げるように姿を消してしまったのに

どうやって今更会えるというのか・・・

会いたいけど会いたくない人・・

まさに花沢類はつくしにとってそんな存在であった

このままでいったら確実に花沢類と出会ってしまう

そうなる前に辞退とかなんでもいいからどうにかしないと・・

つくしはそう思っていた

「そうよね・・牧野さんには事情があるし・・・

　ちょっと池上さん！！大丈夫なんでしょうね！！

　池上さんが誘ったんだから最後まで面倒見てくださいよ！」

そう佐々木さんが言うと池上は両手を上にあげて

「そんな事言ったってさ・・・牧野さんには田嶋がつくことに

　なったんだろ？それに俺は今回のプロジェクトの参加者じゃない。

　面倒を最後まで見るのは無理だよ。」

その言葉に二人は

「「えーー！池上さんずるい！！」」

と口を揃えた

池上は謝る動作をしながら

「わりぃな。田嶋には俺から後で言っとくからさ」

「もぅ！！ちゃんと言っておいてくださいよ。頼りないんだから！！」

佐々木さんはプイと顔を背けて言った

＜２８＞

花沢類は小会議室の扉を数度叩いた後、ドアを開けた

「すみません・・・ここに今回の入選された方が

　来ていると伺ったのですが・・・」

そう言いながら、会議室を見渡した

その瞬間

花沢類の視界に4年間夢の中でしか会えなかった

ずっとずっと会いたくて仕方の無かった姿を捉えた

（まっ牧野・・・なのか？）

分厚い眼鏡で顔を隠し、4年前よりずっと大人っぽくなっていた

髪も随分と長くなっていたが、見間違うはずは無い

花沢類は目の前の彼女は牧野つくしだと一瞬で確信した

ペンネームしか聞くことが出来なかったが

小説を読んだときにすぐに牧野の事が脳裏に浮かんだ

それは、主人公の女性が牧野と重なっていたから・・・

それからというもの、花沢類の中で

4年前の封印していた想いまでもがあふれてしまっていた

4年前の後悔が心の中に押し寄せる毎日

きっといつかは会える・・そう自分に言い聞かせる毎日

何度も何度も捜し求めた姿

夢の中でしか会えなかった・・・

夢の中でもいいから会いたかった・・・

毎夜牧野の夢が見られるようにと思いながら眠りについた

4年間という長い間、待ち焦がれていた・・

会いたくて仕方の無かった彼女が目の前にいるなんて・・・

花沢類には信じられなかった

思わずつくしに抱きしめて確かめたい・・そう思った

でも牧野の他にこの会議室に数名いることに気がついた

と同時に自分の父親の言葉が脳裏に浮かんだ

（『私情を挟むな』・・・か・・）

花沢類は自分の心を落ち着かせるために

抱きしめたい・・彼女に触れたい衝動を必死に抑えるように

ぎゅっと拳を作った

そして皆に分からないように深呼吸を一度すると再び話し始めた

「春野日向さんでしたか？はじめまして。

　
　私は今回、春野さんの映画製作のプロジェクトの責任者で

　花沢類と言います。これからよろしく」

そう言って握手を求めにつくしの前へと進んでいったのだった

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